着物文化

 この度の入院がどのくらいになるのか。 整形外科なので素人判断ができないから、
とりあえず文庫本を5.6冊、着替えの中に押し込んでいった。その中に藤沢周平の
『海鳴り』(上・下巻・2冊)。 購入したままなぜか未読だった文庫も。
 江戸時代の紙(和紙)問屋仲間の抗争が舞台、そこに色恋が散りばめられている。
読み終わり、巻末の「解説」を読んでいたら、以下のような文章が目に留まった。
  
 ‟ 「新兵衛」さん、待ってください」
  おこうのこの言葉につづく十行あまりの文章は、おそらくわが国の小説史に
  残るであろう比類のない美しさをもっているが、その十行を経てこの小説は
  一挙に情欲の世界を越える。・・・ ”

 恥ずかしながら、その場面は読み過ごしてしまい、どこであったか探してみると、
以下の場面でした(少々長いですが)。

 ‟ 「新兵衛」さん、待ってください」
  押し殺した声で言うと、おこうは新兵衛の手をおしのけて畳にすべり降りた。
  そしてあわただしく裾を合わせて座ると、半ばとけて畳に流れている帯を手
  もとに引き寄せた。帯をつかんだまま、おこうはうなだれている。
   息を殺して、新兵衛はおこうを見まもった。 すると、おこうの手がまた動
  いた。おこうは身体から帯をはずして畳んでいる。そしてきっぱりと立つと、
  夜具のそばに行った。
   おこうはそこで、さらに腰に巻きついている紐をはずし、着物を脱ぎ捨て
  ると、長襦袢だけになった。その姿のまま、新兵衛に背をむけてひっそりと
  坐った。新兵衛は立って行くと、跪いて背後からそっとおこうの肩を抱いた。
  こわかったら、ここでやめてもいいのだよおこうさん、と新兵衛が思った時、
  おこうが振り向いた。おこうは奇妙なほどにひたむきな顔で、手をのばすと
  新兵衛の羽織の紐をといた。”

 互いに既婚者。夫のある女と通じた男は引き回しのうえ獄門に懸けられ、女も
死罪になるという時代背景。
                  *

 着物が生活の場から遠のいて久しい。呉服問屋だった実家の両親は一年中着物が
普段着だった。姉たちが着物を着るとき、母親が着付けをしてあげている姿を子供
のころ横で見ていて、まぁ、なんと手間のかかることかと、ふと小説のその場面で
思い出した。現代なら、服と下着ですぐ片がつくところなのに。

 おこうがどんな姿だったのか、どういう所作なのか眼にみえるようだ。いつの日
かドラマ化されたなら、この場面はぜひ観たい。

Filed under: 本、小説、詩  タグ: — tomi 16:42
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